
「治った=原因が改善した」ではない
今回の選手は、肘の疲労骨折から競技復帰している過程での動作指導でした。
疲労骨折をした当時は、投球中に痛みがある状態で試合でも投げ、その翌日に強い痛みが出て病院を受診し、疲労骨折と診断されています。
その後は投球を中止し、リハビリを経て、現在は病院から投球再開の許可が出ている状態です。
現在は投球時の痛みもほとんどありません。
ただ、ここで重要なのは、
「骨折が治った=怪我をした原因まで改善された」ではない
ということです。
疲労骨折そのものは結果です。
もし身体の硬さや筋力的な弱さなど、身体機能に何らかの問題があり、その結果として特定の部位に負担が集中して怪我につながっていたのであれば、骨折が治ったとしても、その身体機能の問題が残っていれば再び同じような負担がかかる可能性があります。
「突っ込む」「手が遅れる」というフォームの課題
その上で、今回は投球動作も確認しました。
本人が気にしていたのは、
「身体が突っ込んでいると言われること」
「手が上がってくるのが遅いと言われること」
でした。
本人もシャドーピッチングなどで、着地に対して腕を上げるタイミングを合わせるように取り組んでいました。
しかし実際に投球を見ると、単純に「腕が上がるのが遅い」という問題ではありませんでした。
胸郭周辺に硬さがあり、身体の中心から腕へ連動して振られるというよりも、動き出しから自分で肘を前に出し、そこから肘を伸ばして投げにいく傾向が見られました。
腕を自分で振るのではなく、身体の回旋で腕を振る
本来は身体が先行して動き、ボールを持っている手先は最後まで残ります。
身体が前方へ進みながら回旋することで、手先が相対的に遅れ、身体の動きによって腕が引っ張られてきます。
今回の選手は、この「身体の回旋によって腕が振られる動き」が十分に使えていませんでした。
さらに関係していたのが、投球時の「しなり」です。
一般的に腕がしなると表現しますが、実際には腕だけで作られているものではありません。
胸椎が伸展し、それに伴って肩甲骨が後傾し、肩関節・上腕骨が外旋していく。
この一連の動きによって、投球時の「しなり」が作られます。
今回はこの部分にも硬さがあり、身体の回旋によって自然に腕が遅れてくるのではなく、自分から肘を前に出して投げにいく動きにつながっていました。
そこで、胸郭・胸椎の動きを出し、身体の回旋によって腕が振られる状態を作るドリルを行いました。
「腕を残す」のではなく、身体が先に進む
本人が気にしていた「手が上がってくるのが遅い」という部分についても、肘を早く上げようとすると、逆に肘から腕を動かそうとして遅れる傾向がありました。
そのため、肘だけを上げるのではなく、肘と手先が同じくらいのタイミングで上がってくるイメージに変更しています。
そしてもう一つ重要なのが、
「腕を残そうとする」のではなく、身体が先に進むことで結果的に腕が遅れることです。
腕の位置を後ろに固定しておくことが「腕を残す」ということではありません。
身体が前方へ進んでいけば、自分で腕を後ろに残そうとしなくても、身体と腕の位置関係に差が生まれます。
実際にドリル後の投球では、本人は身体を傾けようとはしていません。
前方へ進むことによって並進運動が強くなり、その結果として身体の傾きが自然に作られました。
最初の投球と比較すると、本人が課題としていた「突っ込み」も減り、身体の開きも遅くなっています。
さらに、着地付近では腕が身体に対して遅れ、身体の動きによって腕が引っ張られてくる状態も作られるようになりました。
怪我が治った先まで考える
今回はまだ全力投球ではないため、投球強度が上がった時に同じ動作ができるかは今後確認していく必要があります。
まずは身体機能を改善していくこと。
そして投球では、肘や手先だけでボールを投げるのではなく、胸郭・胸椎を含めた身体の回旋によって腕が振られる動きを身につけていくこと。
怪我が治ったから終わりではなく、なぜそこに負担がかかったのかまで考えていく。
身体機能と投球動作の両方から、再び同じ部位に負担を集中させない投球動作を作っていきます。